「御前それは引くやろ」
金曜日の昼過ぎ、塾で出来た唯一の友達であるO君は言った。
「そうかな~」
「いや、そうに決まってるやろ!!そんなんしたらメルアドどころかすべてが終わるぞ!」
「そんな・・・」
俺に突きつけられた現実はあまりにも皮肉なものだった。
疑いもなくあの作戦を盲信して夢中になっていた俺を奴の言葉はスタート地点まで見事に引き戻してくれた。
「じゃあどうすりゃえぇねん」
「いや、だから普通に声かけりゃえぇねんアホ」
「普通に声かけても・・・無理やろぶっちゃけ」
「そっちの方が無理やわ!男のおもろいと女のおもろいは違うねんぞ」
「わ・・わかっとるけど!!」
「あ~もうじれったいな~~もう今から呼んできたろか?」
「いや・・・それはキツイ」
俺にも算段はあった。明日の土曜にはもう美容室の予約を入れている。最高のコンディションにおいて第一印象を構築しようとする目論みだ。
だとすると計画を実行しようとするならば仲良くなってからじゃないとキツイって話になる。とゆうことは土曜日、予定通りにそのコントを路上でやって引かれないためには今日中にパヒュームと仲良くなっておかなければならないのだ。
もちろん、わがままを言えば選択肢はまだ多々ある。だが今まで俺とともに闘ってくれたレイオや森のために、是非とも計画は実行したかった。
「じゃあもうあれやな」
「なんやねん」
「今日声かけて仲良くなったらえぇねやん。で、明日それやったら」
「だからそうゆったやんけ・・・」(O君)
数時間にも渡る迷走の結果俺はその結論を導き出した。つまり、美容院1日前の最も腐敗した髪型で奴に声をかけるとゆうわけだ!しかし、ずちなし。
計画はやっとこさ決まったものの、その時俺にある疑問が生まれた。
「どうせ無理なんじゃないか」
俺は確かにネガティブな人間かもしれない。だがそう思うのには理由がある。
なぜならパヒュームは毎日勤勉実直にZ会に通い詰め、張り詰めた空気を漂わせながら自習室で勉強している。つまりきっと目差す大学も高いランクなのだろう。
邪魔だけはしたくない。だから仮に仲良くなれてメールをしだしたとしても俺は耐え忍ぶ戦いをしなくてはならないことになる。もはや自己満足ではどうにもならなくなってきたっちゅうわけ。
「俺に何が出来るというのだ・・・」俺は思った。
諦めよう。一時はそう思った。現実、そーした状況の上、かつて俺はゴウドに骨の髄までいじられたという不都合な真実もある。
しかし同時に「また逃げるのか」と俺に問いかける声もあった。
ここまで自分が弱い人間だったとはな・・・俺は自分を自嘲した。
勉強もせずに導き出した答えは結局
「男には引いてはならない戦いがある」とゆうものだった。かっこよすぎ!
確かにいろいろ考えれば諦める理由なんざ腐るほどある。「やめておけ」と俺の中で誰かが警告音を発している。しかしそれらの事は俺が奴に近づきたいと思う「感情」に何の関係もない。つまり単なる逃げ口上だ。
「よし。行こう。」俺は決めた。覚悟は決まっていた。しかしいざとゆうとき何を話せばいいのか俺にはどうしても思いつかなかった。
「さりげなく行くねんて、」O君は言った。
そのセリフ確かによく聞く。だがさりげなくってなんやねん!それって場数踏んでナンボの話やろ!俺にはそんな器用なこと・・・出来るかもしれない!!
俺はその直後レイオをメールで呼び出し(すぺしゃるさんくす)事の次第を報告した。
「とゆうことやねん。でも何てゆぅたらいいか全く思いつかへん。」(俺)
「あ~なるほどなぁ。」
「いきなり蹴飛ばしてぼこぼこにするってゆうんわ?」
「ひゃははははははは!!!!」
「いや~そりゃマズイか。じゃあ・・・路上で筋トレしてて・・・」
「またそれかよ!!」
こうした問答は長らく続き、楽しくはあったが実のない時間がすぎていった・・・
「何か俺ら・・・こんなんしとってえぇんかな・・・」
「いや確実落ちるやろ」
「こうなったら・・・道ゆく女性に声かけて、何てゆぅたらえぇか聞くってゆうんわ?」
「あ~それいいな。女心わかるし。じゃあはよやれよ」
「でもここでやるんやったらおもんない。どうせなら最上の女を狙おうぜって事で・・」
俺たちはキャバ嬢をナンパすべく、北野の歓楽街へと向かった!!!